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2025/11/14

東芝が Azure OpenAI ベースの AI マルチエージェントによる製造ラインのデータ分析を実現し、わずか数分で問題発生時の原因究明と改善提案を行うシステムを実現

デジタル化に伴い電子基板の需要が拡大する中で労働人口は減少傾向にあり、SMT ラインでは、データ活用による更なる生産性向上が求められています。一方、データ分析には時間がかかり、熟練者の知見に依存するという課題があります。東芝グループではこの課題を解決すべく、2024 年 10 月に「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」の提供を開始。データ可視化や改善提案に加え、現在は製造ノウハウを活用した AI マルチエージェントの開発を進めています。

このプロジェクトには、Microsoft Unified の一環としてマイクロソフト技術者が参画し、MVP (Minimum Viable Product:最小実行可能製品) 開発を支援しています。簡単な操作で利用できること、思考プロセスを可視化できること、ノウハウを追加実装できる拡張性を担保すること、といった要件を満たすため、Azure OpenAI をベースとした複数の AI エージェントが連携して、問題発生時の原因究明と改善提案を行うシステムを実現しています。

東芝グループの製造ノウハウを活用した AI により、現場の熟練者の思考プロセスを再現し、的確な改善提案が可能となりました。熟練者でなくても問題発生時に迅速な対策や改善活動が行えるようになり、提案までの時間も数分以内に短縮されています。また、AI エージェント間の対話を可視化することで、若手技術者が熟練者の思考を学ぶ機会としても活用が期待されています。

Toshiba Corporation

少量多品種化が進む SMT ライン、現場対応力と知見の継承が課題に

スマートフォンや家電製品はもちろん、自動車や産業設備など、幅広い分野で電子回路基板は不可欠な存在になっています。近年では機器の小型化・軽量化に貢献するため、部品を基板の表面に直接実装する「表面実装技術 (Surface Mount Technology: SMT) 」の活用が一般的になっています。この方法は、基板に対するはんだ印刷から部品搭載、加熱によるはんだ付けといった、一連の工程を自動化できるため、大幅な効率化が可能になり、大量生産に適している点も大きなメリットです。

しかし「近年は電子基板の少量多品種化が進んでおり、SMT ラインでは生産ロットの切り替えに伴う段取り作業が頻繁に発生するようになっています」と語るのは、株式会社 東芝 (以下、東芝) の総合研究所 生産技術センターで実装プロセスの生産技術を研究している朝桐 智 氏です。東芝グループ内の SMT ラインでも、日々複数回の基板種切り替えが行われており、製品ごとに異なる条件設定や部材交換が求められるため、現場では迅速かつ的確な対応が必要とされています。こうした対応には、熟練者の経験と判断力が不可欠であり、技術継承や支援ツールの整備が重要な課題となっています。

「段取り作業は現在も人の手によって行われており、製品ごとに異なる条件設定や部材交換など、細かな対応が求められます。こうした作業には、熟練者の判断が重要な場面も少なくありませんが、ノウハウが特定の個人に依存する問題が顕在化しています。特に、段取り後にラインで問題が発生した場合には、原因の特定から対応策の検討、改善策の立案まで迅速に行う必要がありますが、こうした対応力を次世代に継承することは容易ではありません」。

また、SMT ラインには複数メーカーの製造設備が混在して使用されることもあり、それぞれの設備が異なる仕様やインターフェイスを持つため、ライン全体のデータ収集や情報の一元管理が困難であることも問題だと指摘。このような問題を解決するため、東芝グループでは 2024 年 10 月に「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」の提供を開始しています。

この製品は、異なるメーカーの設備からデータを自動収集し、工程管理や品質分析などの目的に応じて情報を整理・可視化できるダッシュボードを提供します。これにより SMT ラインにおける設備状態の把握や不良要因の分析、改善活動の効率化が可能となり、現場の負荷軽減に貢献します」。

しかし、設備や工程の状態を可視化することはできても、不良発生の原因究明や対策の検討といった改善業務は、依然として人手に頼らざるを得ません。これを解決するため、東芝では「AI エージェントによる分析・改善提案」の開発を進めています。

朝桐 智 氏, 総合研究所 生産技術センター 実装プロセス技術研究部 シニアエキスパート, 株式会社 東芝

“東芝の生産技術センターでの検証では、従来は状況によっては数時間を要することもあった不良原因の特定や改善策の立案について、AI エージェントが数分以内で具体的な対処案を提示できることが確認されています。この AI は、東芝グループが保有する製造ナレッジを AI 活用向けに再構成した知見をベースにしており、一般的な生成 AI とは異なり、現場で実行可能な実効性の高い提案を行えるのが特長です。”

朝桐 智 氏, 総合研究所 生産技術センター 実装プロセス技術研究部 シニアエキスパート, 株式会社 東芝

マイクロソフト技術者と共に、3 つの要件を満たした AI マルチエージェントを構築

「AI エージェントによる分析・改善提案の実現は、Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTラインの開発初期段階から考えていました」と語るのは、この製品の開発を担当している東芝デジタルソリューションズ株式会社 (以下、東芝デジタルソリューションズ) 吉崎 丈宏 氏です。2025 年 4 月にはマイクロソフトと共に、AI エージェントの MVP 開発に着手しています。

その構成と利用イメージは図に示す通りです。まずユーザーは、Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTラインのダッシュボードの中から、問題が生じている KPI をマウス クリックで指定。これを受けた「計画エージェント」が分析計画を立案し、「分析エージェント」に実際の分析を依頼します。ここで原因がわかるまで計画と分析を繰り返す「Deep Research」を実施した後、「改善提案エージェント」が対処策を立案、その結果がユーザーに返されます。

各 AI エージェントは Azure OpenAI をベースにしており、これらの AI エージェント同士のやり取りなどは、Azure App Service に展開された Blazor (マイクロソフトが提供するオープンソースの Web アプリケーション開発フレームワーク) 上で実現しています。

「Azure と Azure OpenAI は以前から使っており、AI エージェントも最初から Azure 上で実現しようと考えていました」と吉崎 氏。しかし社内には AI マルチエージェントの実装事例が少なく、どう実現すればいいのかわからなかったと振り返ります。そこで、マイクロソフトに相談したところ、Microsoft Unified の中に「マイクロソフト技術者を開発プロジェクトに参加させるプログラム」があると聞き、マイクロソフトと二人三脚で MVP を開発することに決定したと言います。

この MVP には、3 つの注目すべき特徴があります。

第 1 は、利用イメージの図でも示されているように、1 クリックで使えることです。ダッシュボード画面の KPI をクリックするだけで AI エージェントが動き出すため、キーボード入力を行う必要はありません。そのため生産現場で利用しやすいのです。

第 2 は、AI の判断根拠を可視化できることです。AI エージェント同士のやり取りがチャット形式で表示され、それを読むことで分析過程の把握が可能なのです。「製造業では常にエビデンスが求められるので、これは重要な機能です」と朝桐 氏は指摘。マルチエージェントを採用した最大の理由も、ここにあると吉崎 氏は説明します。

そして第 3 が、東芝の製造ノウハウを活用した改善提案が可能なことです。「製造ナレッジの整備などは、東芝グループ全体で取り組んでいる活動の一環です。その中から SMT 関連の知見を抽出し、今回の AI エージェントに実装しました」と朝桐 氏。また吉崎 氏は「東芝以外のユーザー企業独自のナレッジも組み込めるよう、拡張性も意識した作りになっています」と語ります。

「マイクロソフトの技術者は、このような要件をいかにして実装していくかを、複数の選択肢を提示しながら提案してくれました。また疑問が生じた場合でも、Microsoft Teams のチャットや週次の定例会議ですぐに回答してくれます。開発された MVP は 2025 年 7 月に開催された『製造業DX展』で展示しましたが、これを作り上げた際にはマイクロソフトの技術者に提供いただいたサンプル コードを 3 時間にわたって解説してもらいました」 (吉崎 氏)。

吉崎 丈宏 氏, デジタルエンジニアリングセンター スマートマニュファクチャリングソリューション第一部 スマートマニュファクチャリング技術担当 スペシャリスト, 東芝デジタルソリューションズ株式会社

“マイクロソフトの技術者は、このような要件をいかにして実装していくかを、複数の選択肢を提示しながら提案してくれました。また疑問が生じた場合でも、Microsoft Teams のチャットや週次の定例会議ですぐに回答してくれます。開発された MVP は 2025 年 7 月に開催された『製造業DX展』で展示しましたが、これを作り上げた際にはマイクロソフトの技術者に提供いただいたサンプル コードを 3 時間にわたって解説してもらいました。”

吉崎 丈宏 氏, デジタルエンジニアリングセンター スマートマニュファクチャリングソリューション第一部 スマートマニュファクチャリング技術担当 スペシャリスト, 東芝デジタルソリューションズ株式会社

AI エージェントで可能になる 3 つの業務効果

「製造業DX展」における MVP のデモ展示は、大きな反響を呼ぶことになりました。「AI からの改善提案の回答が思っていたより早い」「分析結果と改善策が別れており、細かく記載されているのでわかりやすい」「商品化されれば導入を検討したい」など、数多くの好意的な意見が集まったのです。

それでは実際に、どの程度の効果が見込めるのでしょうか。朝桐 氏は次のように説明します。「東芝の生産技術センターでの検証では、従来は状況によっては数時間を要することもあった不良原因の特定や改善策の立案について、AIエージェントが数分以内で具体的な対処案を提示できることが確認されています。この AI は、東芝グループが保有する製造ナレッジを AI 活用向けに再構成した知見をベースにしており、一般的な生成 AI とは異なり、現場で実行可能な実効性の高い提案を行えるのが特長です」。

このようなリコメンドを短時間で得られることで、現場業務には大きく 3 つのメリットがもたらされるはずだとも指摘します。

第 1 は、問題発生時のリカバリーの迅速化です。生産ラインでチョコ停 (設備が短時間停止すること) が発生するとその後工程に影響を与えてしまいますが、対応が早ければ影響を最小限に抑えることができます。

第 2 ポイントは、改善の PDCA サイクルを迅速に回せることです。AI エージェントが短時間で確度の高い改善策を提示することで、現場での対応が早まり、実行・評価までの流れを加速できます。また、改善策の方向性が明確になることで、現場での議論も効率的に進められるようになります。

そして第 3 が、後進の教育も効率化できることです。

「エージェント間のやり取りは、現場エキスパートの思考プロセスを模した構造で設計されており、その推論過程を可視化することで、熟練者がどのように判断しているのかを学ぶ手がかりにもなります。また、製造ナレッジを継続的に追加・更新することで、AI エージェントはより高度な提案が可能となり、まるで『定年のないベテラン』のように、ノウハウの継承と現場支援に貢献する存在になることが期待されています」。 (朝桐 氏)。

すでに MVP 開発は完了しており、これをもとにした改良が、マイクロソフト参画のもと東芝グループ内で進められています。

「MVP でのナレッジ実装は CSV ファイルを使っていますが、製品化の際には Azure Cosmos DB の活用を検討しています」と吉崎 氏。ほかにも、Azure AI Search や Azure Functions、Azure Event Hubs などの利用も検討していると語ります。

改善された AI エージェントは、今後の展示会にも出展し SMT ラインの皆様の意見を取り入れていく予定。また東芝グループ内でのモデル工程で、パイロット的な活用を進めていくことも検討されています。そして 2026 年には、商品としてリリースされる計画になっています。

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