生成AI事業化支援プログラム 製薬業界向けイベント ~製薬業界の未来を、AI とともに~
2026年2月27日、日本マイクロソフト品川本社でヘルスケア・製薬業界向けAIエージェント活用推進セミナーが開催されました。ボストンコンサルティンググループ合同会社様からのご紹介や製薬企業様による事例発表、パートナー企業によるソリューション紹介が行われ、多くの参加者が来場し、盛況のうちに開催されました。本セミナーは業界内でのAIエージェントへの関心の高さを示しました。
オープニング
冒頭のオープニングでは、日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長木村靖より、政府官公庁、独法、自治体、教育、ヘルスケアから成るパブリックセクター事業の全体像について紹介しました。「Agentic Worldを如何に製薬業界で推進していくか、お客様、パートナー企業様一体となって考えていきたい」と製薬業界に対する意気込みを言及しました。
「ヘルスケア×生成AIの展望」
ボストンコンサルティンググループ合同会社
Managing Director & Partner
鹿野 洋氏
はじめに、ボストンコンサルティンググループ合同会社Managing Director & Partnerで、製薬業界・医療機器メーカー等のヘルスケア業界のクライアントに対して幅広いテーマで支援されており、近年はヘルスケア×生成AIというテーマでも豊富なご経験を有する鹿野 洋氏に招待講演を実施していただきました。
まずは、生成AIの台頭から昨今の技術革新までを振り返り、生成AIがあらゆる産業界にもたらしうる価値の類型と、それを実現するための10-20-70の原則(詳細はBCG社発信情報をご参照ください)を紹介されました。

その後製薬業界にフォーカスし、バリューチェーンごとのAI活用シナリオを俯瞰しつつ、AIによる価値創出のポテンシャルが特に大きいドメインやそのインパクトドライバーに係る分析・考察をご紹介くださいました。また、より実務に踏み込んだテーマとして、BCG社が開発したソリューションのデモも示しつつ、コマーシャル・開発・製造の各領域における実際の生成AI活用事例とそれによってもたらされた成果(例:対象業務のリードタイム削減量)等もお話しいただき、参加者からも高い興味・関心を得ていました。締めくくりには、製薬企業の経営者に向けた「AI活用に関する5つの要諦」として、製薬企業における今後の生成AI活用に関する方向性への提言をお示しいただきました。
「マイクロソフトのグローバルでのライフサイエンス領域における取組み」
Microsoft, EMEA & ASIA Director for Healthcare and Life Sciences
Antonio Gatti
続いてMicrosoft, EMEA & ASIA Director for Healthcare and Life SciencesのAntonio Gattiが登壇。
まずは、製薬業界グローバル全体にて挙げられる4つの大きな課題(薬価、医薬品開発に必要なコスト、データのサイロ化、)を定量的なデータを用いながら紹介しました。

そして、昨今Microsoftが掲げる”Frontier Firm”へのAIエージェント活用を軸とした道筋をご紹介しました。人間が行う作業をサポートするAIから、”Digital Colleagues”となり、人間が大まかな指示を与えるとビジネスプロセス・ワークフロー全体の推進役を担うAIエージェントへ進化させていくことで、AIの真価をビジネス実装できると考えています。
その後、R&D領域に特化した新たなエージェントプラットフォーム、Microsoft Discoveryのご紹介をいたしました。次世代のサル痘ワクチンに向けたアプローチを開発を仮題材として、仮説立案や、シミュレーション等をどのように行うか、コンセプト動画を交えてご説明しました。Microsoft Discovery内部でシミュレーションやビジネス開発、科学論文の執筆等に特化したエージェント群が有機的に連動し、創薬に関する複雑な問いに対するアクションを可能にすることが示されました。

また、製薬企業様の様々なバリューチェーン領域におけるグローバル事例や、Microsoft Azure上でご利用可能な最先端のライフサイエンス向けAIモデルのご紹介を行い、最後に信頼性のあるAI(安全性、セキュリティ、プライバシー)に関するご説明を行い、セッションを締めくくりました。
AIエージェント導入企業様による事例紹介
「逸脱処理プロセスの効率化に向けたマルチエージェントの有効性検証」
アステラス製薬株式会社
Product Development and Manufacturing,
CMfgO Office, Capability Development & Compliance
室 篤志氏
このセッションでは、AIエージェント を導入して業務改革を進めている先進的な製薬企業による事例が紹介されました。
室氏からは、まずアステラス製薬のものづくりにおけるナレッジマネジメントの考え方と、マルチエージェントへの期待について説明がありました。
様々な専門部門の協業で成り立つ医薬品ものづくりにおいて、各部門の知識を集約したエージェントを構築することで、各業務プロセスの高度化・効率化が期待されます。さらに、これらのエージェントを組み合わせたマルチエージェントを構築することで、課題に対して各部門の多様な視点を踏まえた全体最適なアプローチを、最速で選択できるようになります。
今回、最初のマルチエージェントの取り組みとして、「製品の生産中に発生したトラブルに対して、対応案を提案する (逸脱対応)」を選定され、PoCを日本マイクロソフトと実施されました。

要件として、逸脱に対する適切な対応の提示、網羅性の担保、回答信頼性等を掲げられた中で、複数の専門的な役割を担うエージェント群(検索エージェント、信頼性確認エージェント、構造化エージェント 等)を有機的に連携させるマルチエージェントが採用されました。PoCの結果、一定の前提条件のもとで試算した場合、1研究所あたり月当たり最大で約67%、約98時間程度の工数削減が期待されることが示唆されました。

アステラス製薬では、医薬品ものづくりの設計図であるQTPP(Quality Target Product Profile:投与ルート、含量、錠剤サイズ、注射剤の液量等)の設定支援へのマルチエージェントの応用についても、今後検討を進めていく予定とのことです。QTPPの設定には、実現可能性、競合優位性、患者さんのQOL等、複数の観点からの検討が求められることから、マルチエージェントの真価が発揮される領域として、製薬業界全体においても期待が高まっています。
「安全な生成AI基盤×業務AIアプリ量産による現場課題の高速解決」
株式会社大塚製薬工場
ICTソリューション部
Internal-DX推進リーダー
石﨑 拓海氏
営業企画部
営業DX推進リーダー / epico Product Lead
清水 陽介氏
石﨑氏と清水氏からは、大塚製薬工場における「安全な生成AI基盤の構築」と「業務AIアプリの内製・量産」による現場課題の高速解決について、具体的な事例を交えて紹介されました。冒頭では、経営戦略としてのDX推進方針や、IT部門強化・内製文化の醸成といった背景が示され、生成AI活用を全社展開するための組織体制と文化的土台が説明されました。

基盤面では、Azure OpenAI Service をグループ共通テナント上に導入し、Microsoft Teams を入口とした安全な生成AI利用環境を整備した点が特徴です。認証・権限管理・ログ管理を標準化しつつ、2023年には社内版AIチャットボットである「OPFコンシェルジュ」を全社展開することで、社員が安心して生成AIを試せる環境を早期に確立しました。これにより、現場の活用アイデアが一気に広がり、AI活用の裾野拡大につながりました。

具体的な事例として、営業支援AIエージェント「epico」と、品質保証領域の文書点検プラットフォームが紹介されました。epicoでは、社内外に散在する営業・学術・市場データを統合し、マルチエージェント技術により調査・分析・回答を自律的に実行することで、MRの情報収集時間を大幅に削減し、提案力向上を実現しています。一方、文書点検プラットフォームでは、複数のエージェントが役割分担して規程検索、差分抽出、根拠提示、指摘生成を行い、点検業務の効率化と品質向上を可能にしました。
これらを支えた成功要因として、「安全な入口の先行整備」「共通基盤とテンプレートによる量産」「現場主導×IT伴走の協創体制」「人材育成と内製文化」が挙げられました。今後は、対話型からタスク実行型エージェントへの進化や、基盤のグループ展開を通じて、全社・グループ横断でのDX加速が期待されています。
パートナー企業様によるソリューション紹介
「製薬企業で”使われる”生成AIにするための継続的な進化」
アバナード株式会社
クライアントソリューション本部,
A&I Software Engineering, Manager
井関 純一氏
アバナード株式会社は、製薬企業において生成AIを「導入して終わらせない」ための実践的な取り組みを紹介しました。生成AIは大きな期待を集める一方で、現場に定着せず価値創出につながらないという課題も少なくありません。本セッションでは、技術提供だけにとどまらず、お客様と伴走しながらユーザー価値を共に創り上げていくアプローチに焦点を当てました。

大手製薬企業様における社内向け生成AIプラットフォームの事例を通じて、短期間での本番導入を実現した背景や、利用者の声を起点に継続的な改善と進化を重ねるアジャイルな開発プロセスを解説しました。さらに、機能豊富なAzureのAIサービス群を基盤にして作り上げた、特徴的な機能と取り組みを複数取り上げ、アルゴリズム最適化によるAIの回答精度向上、部門/組織ごとに最適化されたデータ&AI活用基盤、日常業務に自然に溶け込む文書作成支援の独自機能などの概要やユースケースを紹介しました。
アバナードは技術力とコンサルティング力を掛け合わせ、今後もお客様の成果につながるAI活用をご支援していきます。
ユーザー起点で進めるMicrosoft 365 Copilot & Agentのグローバル全社活用
――トップ・ミドル・ボトムの連動による組織変革
Engage Squared株式会社
Modern Work & Change Management Lead
宇留野 彩子氏
参天製薬株式会社
Digital & IT Global Digital Innovation, Digital Solutions, Specialist
大東 達也氏
Engage Squaredの宇留野氏は、「Microsoft 365 Copilot & Agent全社活用」をテーマに、製薬業界でMicrosoft 365 Copilotのグローバル全社活用を切り拓くフロンティア企業、参天製薬(Santen)を支援する立場から、同社の大東氏とともに、実例に基づく推進モデルを紹介しました。
キーワードは「ユーザー起点」です。宇留野氏はまず、Microsoft 365 Copilot導入における「ライセンスジャーニー」を取り上げ、単なる技術検証ではなく、ビジネス検証としてビジネスユーザーとともに価値や効果を見出し、組織変革の梃子として活用していくことの重要性を示しました。大東氏は、Santenが全社導入に至った背景として、奈良開発研究センターでのビジネス検証を通じて、研究員のオフィスワーク効率化という具体的な成果が確認できたことが、大きな後押しになったと説明しました。
続いて宇留野氏は、全社的な活用を進めるうえで重要となる「トップ」「ミドル」「ボトム」の三層構想を提示しました。経営層の巻き込み、管理職層の協力、ユーザーによる自律的な活用を組み合わせることで、組織全体へと活用が広がっていくという考え方です。Santenではこの三層構造が有効に機能しており、大東氏はそれらをつなぐ「アンバサダー制度」の実例を紹介しました。
また、Agent活用の推進に向けては、研究、営業、マーケティングなど複数部門のビジネスユーザーが参加する「シナリオ発掘わくわくワークショップ」を開催。個別業務の課題にとどまらず、部門横断で共通する課題も明らかになり、Agent開発が大きく前進していることも示されました。


最後に宇留野氏は、「CopilotもAgentも、実際に使うのはユーザーです。だからこそ、ビジネスユーザーの課題を丁寧に聞き出すことが重要です」と締めくくりました。こうしたユーザー起点の取り組みにより、自発的な推進者、いわゆる「野生のアンバサダー」が生まれ、SantenではMicrosoft 365 Copilot & Agent活用のムーブメントがグローバルに広がっています。
懇親会では、Santenの取り組みに対して多くの参加者が高い関心を寄せ、大東氏のもとには質問を求める列ができました。製薬業界におけるMicrosoft 365 Copilotのグローバル全社活用を切り拓くフロンティア企業として、その存在感の大きさが印象づけられる場面となりました。
「AI Agent × 製剤研究 ~Agentic RAG で実現するナレッジ活用~」
株式会社ベーシック
システム部門 第一統括 グループマネージャー
野﨑 俊弘氏
システム部門 第一統括 ミッションマネージャー
阿部 隼人氏

株式会社ベーシックは、製剤研究におけるナレッジ活用をテーマに、沢井製薬様におけるマルチエージェント基盤「Sawai Agents」の構築事例を紹介しました。
製剤研究の現場では「蓄積データの検索」や「レポート作成」など多様な課題が存在します。同社は膨大なデータを最大限に活用し、「ベテラン研究者に相談できるAI」を目指して、業務特化AgentをAzure基盤で一元管理するプラットフォームを開発しました。

本プロジェクトでは、「専門知識の具現化」「複雑な文書解析」「現場への定着」という3つの課題に直面。これに対し、構造解析やチャンキング等の専用Agentを連携させ高精度なナレッジベースを実現し、網羅的検索の反復によりベテラン同等の回答品質を達成しました。さらに、高速な改善サイクルで現場の声を反映させ、人間とAIの協業による知の共有を促進した成果を報告しました。
最後に、本事例の基盤であり、顧客業務に特化したエージェントを早期構築できる「Agent ARK」と、その無償トライアルを案内し、セッションを締めくくりました。
「製薬業界におけるAIエージェント活用の新潮流 ~実務インパクトを生む最新ユースケース~」
GenerativeX
取締役CAIO
上田 雄登氏
GenerativeXの上田雄登氏は「製薬業界におけるAIエージェント活用の新潮流 〜実務インパクトを生む最新ユースケース〜」と題して講演を行いました。
2026年はエージェントのオーケストレーションやセキュアな運用に関心が移ってきていると指摘。AIエージェント開発トレンドとしては「ロングランニング」「コーディングエージェント」「サンドボックス」「スキル基盤」の4つを挙げ、従来カスタムでステップバイステップに構築していた特化型アプリケーションが、コーディングエージェントの進化により汎用的なAgent型の実装でほとんど代替可能になりつつある現状を紹介。


製薬業界における具体的なユースケースとして、ファイル検索、ドキュメントの読み書き、ウェブ検索などのツールを AI に持たせることで、メディカルレビューなどの専門業務の対応が可能となりました。
さらに、AI活用における人間のボトルネック化という課題に対し、人間が起点となるのではなく、会議の文字起こしから自動的に ToDo が生成され、AI がタスクを実行する自社での実装事例を提示。人間はあくまで必要な場面でのみ介在するという新しい業務設計の考え方を示し、講演を締めくくりました。
クロージング
全体のクロージングでは、日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 ヘルスケア統括本部長 清水教弘より、登壇企業各社への謝意を伝えつつ「当初は既存プロセスの効率化が中心であったAI活用も、プロセス自体を見直すことでいかにパラダイムシフトを生み出していくかに移りつつある。まだまだAIにできること・できないことはあるが、こうした変化をどう実現していくかをマイクロソフトはしっかりサポートしてまいりたい。」とコメントがありました。また、「製薬業界全体でAIエージェントによる価値創出を進めていくためには、製薬企業様とパートナー企業様が一体となって進めていく必要がある。」と、ステークホルダー横断的な取り組みの重要性にも言及しました。
製薬業界のAIエージェント活用に関する最先端情報を学び、パートナー企業によるAIソリューションの進化を実感できた参加者にとって、有意義な時間となっておりましたら幸いです。
日本マイクロソフトは今後も製薬業界でのAIエージェント利用の可能性を皆さまと共に追求していきます。興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。